Game Mediation

PCゲーム、3DCG、哲学など

The Vanishing of Ethan Carter 自由は破滅の道

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これはナラティブなゲームです このゲームはあなたの手をつかみはしません

プロ翻訳者による日本語化を適用しゲームを始めるとそんな大胆でちょっと知った人の眉間に皺を寄せさせそうな文句が映る。まずナラティブとはなんだという話だがひとまずこれを読む。

[CEDEC 2013]海外で盛り上がる「ナラティブ」とは何だ? 明確に定義されてこなかった“ナラティブなゲーム”の正体を探るセッションをレポート

この記事をまとめてしまうと「ゲームは体験である。この体験が経験としてプレイヤーに刻み込まれるとき,そこにナラティブがあった」となります。結局定義は難しいとしていますが、この定義に甘んじ準ずると私はこのゲームを決してナラティブなゲームとは言えない。それはこの作品が“グラフィック” “ストーリー”に並ぶ魅力として挙げる“自由”に原因がある。

写実的表現に浮かぶ抽象的表現

この作品の舞台となるRed Creek Valleyの広大な自然や廃墟は革新的な写実技術によって生き生きといった表現では足らないほどの説得力を持ってプレイヤーを迎え入れる。確かにSSを見ただけでもその素晴らしさは分かるが自分で動かすと全く違った感動もたらす。正直こんな素晴らしいビジュアルで歩き回れるというだけで買いだ。割に重くないのもグッド。

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主人公は超自然能力とも言うべき力を持つ探偵である。手紙をくれた少年を助けるためこのクソ田舎を道中に転がっている事件を解決しながら歩を進める。証拠品を調べると主人公の思考のかけらが文字という形で浮かんでくる。プレイヤーはこの文字を手がかりに事件を解いていくのだがこれが中々オシャレである。言いたいことはそれだけだが日本語フォントが素晴らしく雰囲気に合っている、正直オリジナルよりも良いと感じた。

型にはまった推理システム、簡単に名探偵に

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ストーリーの進行に深くつながる推理パートは基本的に証拠と死体を見つけ現場を復元することに留まる。これを単調で退屈なシステムだとは思わない。名探偵ヅラで証拠を探し元の場所へ配置するのは楽しいし事件の全貌が(プレイヤーが意図しないとしても)見えてくるのはワクワクする。通常の推理モノのように偉そうに語る相手がいないのは主人公の超能力によって事件をその場で再現することで補われている。つまりプレイヤーは語られる側ということになるが。

自由は罪なりや

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この作品はスタート地点こそ決まっているもののプレイ開始時から既にフィールドを自由に移動することができる、いやできてしまう。公式でも自分のペースでゲームを進められることを謳っている。しかしこの“自由度”は相反する要素によってマイナス要素と化している。それは“すべての事件を解決する義務”である。「分からなかったら飛ばしてもいいけど後で全部やれよ」ということだ。しかもこの事実はエンディング直前に語られ大半のプレイヤーが散々歩いた道をグラフィックへの感動を忘れ歩く速度の遅さにイラつき進むのが目に見える。当然解決できていなかった事件に付属する事実は後付けになる。今までの感動を全てぶち壊しながら進む破滅の道をプレイヤーは強いられる、といっても遜色ない。

しかし開発者の「お前ら、ナラティブでインタラクティブだからって何もしないでいいって訳じゃねえぞ」というユーザーと開発者に向けた警鐘である可能性が…?


公式の謳うナラティブにはかなっていませんが総評としては素晴らしく美しくまた適度な推理パートなどかなり楽しめる良作です。ぜひ