Game Mediation

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『The MISSING』にみる個性の否定としての四肢欠損

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「The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -」オープニング

この記事は「The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -」のネタバレを含みます。

 

「The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -」はSWERY氏率いるWhite Owlsによる作品。あらすじは以下の通り

 

忽然と姿を消した親友を探す為、奇妙な島「追憶島」を進む少女“J.J.”。

その島は重傷を負い、不自由な身体になっても死ぬことができない悪夢のような場所だった。


何度も死の淵から蘇る少女は、バラバラになった身体を引きずり、苦痛にもがき、苦しみながらも島の奥地を目指す。手足が引き千切れ、首の骨が折れ、大火傷を負いながら……

全ては行方不明になった親友を見つけ出す為、たとえ身体が両断されようとも何度でも蘇り、自らの身体、命を犠牲にしながら前へと進む。

なぜ親友はいなくなったのか、この世界の違和感は何なのか、ゲームをクリアした時全ての謎が解ける。ーSteam商品紹介ページより

 

 

この作品を特異なものにするのは、主人公であるJ.J.が自身の体を傷つけ、切り離し、歪めることによってしか前に進めないという点にある。プレイヤーはゲームを進めるためにはこれらのゴア表現を利用することから逃れられない。例えば高いところにあるオブジェクトを入手するためには自身の腕を切断し、その腕をぶん投げる必要がある。

 

またある時は自分の体に火をつけ離れたところに火を移す火の媒介になったりもする。またダクトのような狭い場所を通る時には左右の腕と足、そして胴体を欠損させ首だけでコロコロ転がって進むことさえもある。

 

 ↑ 高いところにあるオブジェクトを取る場合

 

あらすじにもあった通りこの「追憶島」ではいくら体が欠損しようと瞬時に治癒することが可能だ。首だけになってダクトを通った後には何事もなかったかのように四肢の揃った体に戻ることができる。この欠損と再生を繰り返すことでJJは親友を探すために前に進んでいく。

 

さて、それではこの四肢欠損というおぞましい表現はいったい何を現しているのか、という話の核心に入っていきたい。そのヒント、というか答えはこの作品を始める前に出てくるこの声明文に既に現れている。

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ゲームを始める前に出てくる声明文

「この作品は、すべての人々が自分自身であることを否定しなくて良いという信念のもとに作られています。」

 

ここでネタバラシしてしまうと追憶島とはJJの夢の中の話であり、現実のJ.J.は自殺未遂を行っている男性だ。夢の中のJJは女性の服装をして長い髪をなびかせ、可憐な声で話す。しかし、現実のJJの見た目は少し細めの普通の男性であり、声も低く胸もない。

 

J.J.は男性に生まれたもののぬいぐるみを愛し、女性の服装をすることを望む人間だったのだ。このことによって生じる周囲との軋轢は想像に難くない。彼はそんな環境に耐えられず一人手首をカッターで切り、自殺を図った。この苦しみは夢の中の携帯電話に映るトーク履歴によって徐々に明かされる。J.J.は父親を亡くした一人息子であり母親はそんな息子が女装することを病気だと考えて「治療」させようとしている。

 

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治療 CURE

「治療」とはJ.J.から長い髪を、女性ものの服を、高い声を奪い去り、男性的な服装、振る舞いをさせることで完成する。これはJ.J.の女性的な性質を無理やりに「欠損」させることと換言することができる。

 

ここでこのゲームにおける欠損・暴力表現が何を現していたのか理解することができる。ゲームにおいて切り落とされる四肢とは、J.J.という人間を「男性」という型にはめる際に切り落とされる「個性」を意味している。

 

右腕を切り落とすように服の趣向を否定し、左腕を切り落とすように強くあるべきことを押し付ける。右足を切り落とすように頼りがいがないことを糾弾し、左足を切り落とすように「ホントウの僕」を否定する。周囲から見れば異物に映るものもJ.J.自身にとってみれば大切な個性である。いわば自分の本質だ。それを誰もが否定する。

 

この作品で繰り広げられる残酷で異常な表現の全ては、私たちが普通に暮らしている生活の反映だった。

 

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電車にはねられバラバラになるJ.J.

 ここで冒頭の声明を思い出してみよう。

 

「この作品は、すべての人々が自分自身であることを否定しなくて良いという信念のもとに作られる」

 

そう「すべての人々」だ。個性を否定されて四肢をもぎ取られるような痛みに耐えているのはJ.J.のような女装する男性に限った話ではない。「男なんだから耐えなさい」「女の子なんだからおしとやかにしなさい」。こんな何気ない言葉でさえ私たちは他人を傷つけている。手や足を引きちぎるように他人の個性を否定している。

 

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あたし達……セックスするために生まれてきたの?

このような言葉が根強いのは単に楽だからだ。目の前の人間の個性を見極め、その個性を尊重することは大変だ。それに対して、「一人の男」「一人の女」として見ることは本当に楽だ。知らない人間を「男だから力持ち」で「女だから料理ができる」と決めつけられるのは安心する。「ああ、ぼくも同じ男だよ」と馴れ馴れしく絡むのは本当に楽だ。「私たち女は仲間」と無責任にひとくくりにするのは本当に楽だ。

 

こんなに楽なのだからみんな楽に違いない。

 

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誰もボクのことを理解してはくれないでしょう

友達も ママも 親友も

みんな優しくて ボクの味方になってくれるけど

それでも 誰も本当のボクを理解してくれません

 

そもそも 理解するのは 無理なのかもしれません

 

他人と違うことが こんなにも苦しいなんて

もしかすると この先

大人になったら希望があるかもしれない

先生はボクにそんなことを話してくれました

 

でも もう限界です

たった19年の人生を生きるだけで

こんなにも苦しいのだから

この先 何十年も

これに耐えて生きていく自信がありません

 

ボクは 今日 赤い翼を使おうと思います

どこまでも飛べる 真っ赤な翼を

 

ごめんね ママ

ごめんね エミリー

 

ゲームはここでは終わらない。が言いたいことは言ったので記事はここで終わる。